Interview : 日本科学未来館

毛利衛氏が館長を務める日本科学未来館から、「BLOG 未来館のひと」が公開された。仕様の検討を開始した時点から「スマートフォンに対応しないなんて考えもしなかった」というその理由や、実際にスマートフォン対応したことによる効果について取材した。

日本科学未来館

日本科学未来館

お話を伺ったのは、ブログサイトの制作・科学コミュニケーターの執筆をアドバイスしながら、未来館の広報や展示の企画・解説をおこなっている桑子さんと詫摩さんだ。

科学コミュニケーターの声を届けたい

–まず、日本科学未来館とはどのような場所なのでしょうか?

「ちょうど今年でオープンして 10 年になります。JST(科学技術振興機構)が運営するサイエンスミュージアムで、先端科学の可能性を伝える、科学に向き合う心を持っている全ての人に対して開かれた場所です。日々動いている先端科学から得られる「知」を共有し、より豊かな未来に向けて皆がすべきことを考える輪を広げる、というミッションを持っています。そのために、ミュージアムという「場」での常設展示や企画展、イベント、Webなどを通じて、常に情報発信することを重要視しています」(桑子)

詫摩

「未来館の一番の特徴は科学コミュニケータがいることです。実際の展示を見て頂くと分かるのですが、文字による説明が少なく、その代わりに科学コミュニケーターやボランティアなどのスタッフが立っていて、いろいろと説明を聞くことができます。これは、科学の専門教育を受けていなくても分かりやすい解説が受けられる環境を目指しているためです。未来館は、建物があるためにいわゆる「箱もの」だと思われがちなのですが、実際には中に多くの科学コミュニケーターがいて、お客様と何かをコミュニケーションすることで、彼らも学んだり、またそれを解説に活かしたりと、常に動的に動いています。未来館のこうした特徴と、実際に科学コミュニケーターたちが何を考えているのかを知ってもらいたい、と常々思っていました」(詫摩)

–それでブログを始めようと思ったのですね?

「ブログは、科学コミュニケーター個人を知ってもらえるようなつくりになっています。また、イベントや展示の紹介、お客様との対話の様子など、未来館の日々の活動と有機的につながっています。読み手は興味に応じて必要な情報だけ読み込むことができます。展示の企画の裏話から個人的に気になる最新科学の話題まで、気楽にどんな情報でも書き込めるのがブログの良いところですね」(桑子)

「公式サイトはどうしても固くなります。また、客観的な事実以外は載せていないため、何か面白い、伝えたい、と思えること(主観)があっても掲載できませんでした。一方 Twitter も既に始めていたのですが、こちらは文字数の制限から、例えば、事実の出典をちゃんと記述するといったことが困難です。ブログは、両者をつなぐ存在として、事実と科学コミュニケーターの主観とを明確に分けながら紹介することが簡単にできます。ブログが触媒になって、読み手に新しい発想が生まれたり、新しいコミュニケーションが発生したり、ということを期待しています」(詫摩)

–科学コミュニケーターの皆さんに、読者が興味を持てる記事を書いてもらうのは大変ではないでしょうか?

「執筆者が多いのですが、科学コミュニケーターが皆 HTML を知っている訳でもありません。手軽に書きたい文章を更新できるのはブログの良い所です。また、ブログというタッチポイントを通じて科学コミュニケーションに興味を持って欲しい、そのためには自分たち自身が楽しんでいる、それを伝えることが大事です。だから、書く人が楽しく書けるように、いろいろと考えていますよ!未来館には科学コミュニケーションのできる人を育てるというミッションもあるので、その手段として書いてもらっているという面もあります」(詫摩)

桑子

「別のサイトですが、震災の直後に震災情報の発信を行いました。そのときに読者から、”国の機関に属する未来館のサイトで、中の人の顔が見えるのはどうなのか”、という声がありました。それにどう対処すべきかという検討は慎重に行い、今の形になっています。具体的には、科学コミュニケーターの活動としての基本を守って、”しっかりと分析を行い自分の考えを明らかにする” から軸がぶれないよう心がけています。ブログのサイトポリシー検討の際には、ソーシャルメディアを活用している他の企業のガイドラインも参考にしました」(桑子)

スマートフォンはパーソナルなメディア

–ところでスマートフォン対応は始めから考えていたのでしょうか?

「先ほどの震災情報を発信するサイトを公開したときに。”PC 以外の環境にも対応して欲しい” という意見がありました。読者が常に PC を持ち歩いているわけではありません。そもそも、できるだけコミュニケーションの輪を広げたい、というブログの位置づけからも、スマートフォン対応しないということは考えていませんでした。 未来館へ向かうゆりかもめの車内で、スマートフォン片手にブログを見て、未来館の展示フロアで、記事の書き手である科学コミュニケーターと話の続きをする、というのが自然にできるといいですね」(桑子)

「ブログを読むのって個人アドレスへのメールを読むのに近い、個人的な行為だと思います。個人的なものであれば、それを見るにはスマートフォンや携帯の方が合っているだろうと。これまで Twitter を使った経験から、朝夕の通勤時間にリツイートされやすい、すなわちスマートフォンが多く使われているだろうことは予測できていたので、その時間帯に合わせて記事を公開して、同時に Twitter でも通知するようにしています。ブログ開設から1カ月の時点で、、iOS や Android デバイスからのアクセスは全体の約1/4となりました。Twitter からのアクセスは全体の 15% ほどです」(詫摩)

「Twitter は反応がとれるので、ブログと連動できるよう計画しました。先行して公式 Twitter を始めたり、イベントの Ustream 中継をしていて、そこで得られた反応からブログの企画にうまくつなげられたと思います」(桑子)

4 人に 1 人がスマートフォンやタブレットからというのは多いですね。確かに、個人向けの読み物を提供する手段として、ブログとスマートフォンの組み合わせは有効だ、と言えそうです。

今後の運用について

–スマートフォン対応により、特に手間のかかったことはありましたか?

ブログ「未来館のひと」

「今回は、まず PC 画面を基準に情報の配置を決めて、それをスマートフォン用に対応させるという手順をとりました。スマートフォン版の画面設計は制作会社に任せたのですが、最初にやりたいことを明確に伝えてあったので、制作側が慣れていたこともあり、スムーズに進行しました」(桑子)

「今回は WordPress をベースに構築しました。スマートフォンに対応しやすいというのが選定の理由の一つになっています。また、スマートフォン対応の作業には Dreamweaver が大変役に立ったと伺っています (*脚注)。実際に期間的にも金額的にもそれほど負荷は増えていません」(詫摩)

「スマートフォンは画面が小さいですし、仕様を割り切ることは大事だと思います。もともと PC とは別の機能を持ったデバイスですから」(桑子)

「確かに、公開後に表示確認の手間が増えたという面はあります。私の席の周りだけではすべてのスマートフォン機種がそろわず、離れた部の人に借りて確認したこともありました。ブログスタッフだけで確認できないこともありますので、科学コミュニケーターには、何かおかしな点が見つかったらすぐに連絡するようにお願いしています」(詫摩)

–今後、追加や改良したい点はありますか?

「スマートフォンでの表示時に、検索機能が無いため、例えばシリーズ物の記事の場合、関連する記事が見つけにくいと言われます。スマートフォンでも記事が埋もれないような方法を考えたいです。現状でも、著者のページへ移動すれば記事を見つけやすいのですが、いまのままだとそれを思いつくまでが難しいかもしれません。たくさん記事を書いてくれた著者には、専用のブログページを用意して目立たせるなどの対応を考えています」(桑子)

「Q&A を始めたいです。これは Web じゃないとできないことですので。実は震災情報サイトで質問を受け付けたことがあって、放射線や節電についてご質問を頂きました。まだ全部お答えできていないこともありますし、他の科学的な疑問にも答えられるようになったらよいなと思います。また、メルマガなど他のメディアとの組み合わせにもトライしようと思っています」(詫摩)

*制作を担当された H2O Space. の谷口さんは「やはり Dreamweaver CS5.5 はCSS を切り替えた様子を確認しながら作業できるのが便利でした。それから、JavaScript のコードヒントも重宝しますね。JavaScript 開発も Dreamweaverでやっております」とコメントされています。実際に Dreamweaver CS5.5 を使って「Blog 未来館のひと」をスマートフォンに対応させる手順を紹介したビデオも公開されています。(Adobe TV:スマートフォン向けWebサイトの制作)」

使用したアドビ製品

事例データ

プラットフォーム スマートフォン
使用したWeb技術 CSS3, HTML5

取材協力

会社名 日本科学未来館 (http://www.miraikan.jst.go.jp/aboutus/)
会社概要 日本科学未来館は、21世紀の新しい知を分かち合うために、すべての人にひらかれたサイエンスミュージアムです。活動の中心にあるのは先端の科学技術。これは私たちの現在を変革し、次の時代を切りひらく大きな可能性をもつ「新しい知」です。
未来館では、さまざまな分野に波及するこの先端科学技術の営みを人間の知的活動という視点から捉え、私たちを豊かにする文化の一つとして社会全体で共有することを目指しています。
スタッフ
  • 詫摩 雅子 日本科学未来館
    対外戦略室
    広報担当 科学コミュニケーター
    詫摩 雅子
  • 桑子 朋子 日本科学未来館
    運営事業部施設運営課
    インタープリター指導 科学コミュニケーター
    桑子 朋子
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